2022年12月20日火曜日

保護室で拘束された留置中の男性が相次いで死亡したことに対する声明

愛知県と大阪府の警察署において勾留中に拘束されていた男性が死亡したとの報道が続けざまになされています。

愛知県岡崎警察署での死亡事件(NHK News Web)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221215/k10013924471000.html

大阪府浪速署での死亡事件(朝日新聞デジタル)
https://www.asahi.com/articles/ASQDL4VX8QDLPTIL001.html

これらの事件に接し、
安永健太さん事件に学び 共生社会を実現する会(略称:健太さんの会)は、
以下のとおり声明を発出いたします。

声明のPDF版はこちら

 


2022
年(令和4年)1220

保護室で拘束された留置中の男性が相次いで死亡したことに対する声明

安永健太さんの事件に学び、共生社会を実現する会 

報道によると、令和4124日、愛知県の岡崎警察署の留置場で、勾留されていた43歳の男性が意識を失っているのが見つかり、その後、死亡しました。男性は暴れたなどとして「保護室」に隔離され、ベルト型の手錠や縄などを使って、延べ100時間以上にわたって拘束されていました。

また、1217日には、大阪府の浪速警察署で勾留されていた40代男性が、保護室の中で大声を出したり、頭を壁に打ちつけるなどの自傷行為に及んだりしたとして、ロープやベルト型の手錠などの「戒具」で2回にわたり身体を拘束され、2回目の身体拘束解除から約9時間後、病院に搬送されたところ、死亡が確認されました。警察は男性に対する処置は適切だったとしています。

今から15年前の2007925日、佐賀市で安永健太さんという青年が、5人もの警察官にうつぶせに取り押さえられ、後ろ手錠をかけられて亡くなるという事件が起きました。刑事・民事の双方で最高裁まで争われましたが、結局、健太さんは警察官職務執行法(以下「警職法」)3条の「精神錯乱」者にあたり、警察官らは同条に基づく保護行為を行ったのみで、その行為は正当とされました。健太さんは、いつものとおり、自転車に乗って障害者作業所から家路を急いでいただけなのに、なぜ、地面に押さえつけられて、命を落とさなければならなかったのでしょうか。われわれは、警察官らの無知・無理解と、それに基づく障害者への人権軽視が、健太さんの尊い命を奪ったと考え、健太さんの悲劇を繰り返さないために、この問題を風化させてはならない、この教訓を今後に生かしていかなければならないとの思いで「安永健太さんの事件に学び、共生社会を実現する会(略称:健太さんの会)」を立ち上げました。

しかし、障害のある人を取り巻く状況は15年たった今でも変わりはなく、同じような事件が今なお起きています。そのためにもっと障害への社会の理解が広がること、とりわけ警察及び司法関係者に正しい理解が周知徹底されることを願って、先日、ドキュメンタリー映画『いつもの帰り道で 安永健太さんの死が問いかけるもの』を制作し、無料配信を開始しましたhttps://youtu.be/cKt6LSa9gKE

ところが、今回このような痛ましい事件がまた起きてしまいました。しかし、これらの事件はたまたま連続して起きたのではなく、日常的にどこの警察署でも起きていたのが、岡崎署の事件が大きく報道されたので、関連として、報道で取り上げられたのではと思われます。

加えて、そもそも、障害や疾病のある人を保護するのになぜ手錠やロープなどの「戒具」が必要なのでしょうか。今回の事件も拘束により尊い命が奪われたのではないかと危惧されます。警察官の判断のみで手錠等の使用を許す根拠となる警職法は速やかに改正されるべきです。

また、本年9月に公表された国連障害者の権利に関する委員会の総括所見には、「精神錯乱」などの蔑称について廃止するよう勧告がなされました。

警察庁においては、全国の警察官による障害や疾病のある人たちに対する保護行為が適切に執行されているのかを直ちに検証するとともに、全国の警察官に正しい理解を周知徹底して、障害のある人に配慮した適切な職務執行がなされるよう指導改善することを求めます。
 併せて、国に対しては、総括所見の勧告を受け入れ、速やかに警職法の「精神錯乱」という規定等を削除し、警職法全般を日本が批准した障害者権利条約に相応しい内容に見直すべきことを強く要請します。

以上

 

「いつもの帰り道で 安永健太さんの死が問いかけるもの」の東京新聞紹介記事

 

動画「いつもの帰り道で 安永健太さんの死が問いかけるもの」を無料公開中です。 

安永健太さん事件を知る多くの障害のある人やその家族、支援者は、
我が事のように健太さんを悼み、このような事件の再発を
防がなければならないとの思いを持っています。

しかし、この事件について、社会一般はもちろん、
障害福祉に携わる者のなかでも、周知されているとは言えない状況にあります。

安永健太さん事件が残したものを風化させずに社会に広げ、
障害への社会の理解を広げていきたい。

こんな思いで制作した動画です。

 

クレジット情報等 詳細はこちら
※監督:今井友樹

東京新聞にて12/19にこの動画を紹介する記事が公開されています。
ぜひお読みください。

「保護」名目で制圧され急死…「健太さん事件」から15年 「警職法改正」訴えて遺族・弁護士らが映画制作 (東京新聞 TOKYO web)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/220763



この動画はどなたでもご覧いただけます。ぜひ拡散ください。

そして、もっとこの事件について知っていただきたいため、
学習会やイベント等でも無償で使用いただけます。
もしご希望の場合は、よろしければご一報ください

引き続き、健太さん事件が残したものを風化させず、
障害への社会の理解(特に警察、司法関係者)を広げていくため活動していきます。

活動資金はすべて募金によってまかなわれています。
協力いただけると幸いです。

募金にご協力ください
https://yasunagajikenwokangaeru.blogspot.com/p/blog-page_50.html


●この事件をより詳しく知りたい方は、ぜひ以下の本をお読みください。

「健太さんはなぜ死んだか」

警官たちの「正義」と障害者の命

斎藤貴男 著

健太さんはなぜ死んだか書影

 



2022年12月13日火曜日

動画「いつもの帰り道で 安永健太さんの死が問いかけるもの」を公開中 BuzzFeed紹介記事

動画「いつもの帰り道で 安永健太さんの死が問いかけるもの」を無料公開中です。 

安永健太さん事件を知る多くの障害のある人やその家族、支援者は、
我が事のように健太さんを悼み、このような事件の再発を
防がなければならないとの思いを持っています。

しかし、この事件について、社会一般はもちろん、
障害福祉に携わる者のなかでも、周知されているとは言えない状況にあります。

安永健太さん事件が残したものを風化させずに社会に広げ、
障害への社会の理解を広げていきたい。

こんな思いで制作した動画です。

 

クレジット情報等 詳細はこちら
※監督:今井友樹

 

バリアフリー日本語字幕・音声ガイド・手話付き動画は現在制作中で、近日中に公開します。 

この動画はどなたでもご覧いただけます。ぜひ拡散ください。

そして、もっとこの事件について知っていただきたいため、
学習会やイベント等でも無償で使用いただけます。
もしご希望の場合は、よろしければご一報ください

引き続き、健太さん事件が残したものを風化させず、
障害への社会の理解(特に警察、司法関係者)を広げていくため活動していきます。

活動資金はすべて募金によってまかなわれています。
協力いただけると幸いです。

募金にご協力ください
https://yasunagajikenwokangaeru.blogspot.com/p/blog-page_50.html


●この事件をより詳しく知りたい方は、ぜひ以下の本をお読みください。

「健太さんはなぜ死んだか」

警官たちの「正義」と障害者の命

斎藤貴男 著

健太さんはなぜ死んだか書影

 













BuzzFeed Japanにて12/12にこの動画を紹介する記事が公開されています。
公開後、動画視聴回数が飛躍的に増加しています。ぜひお読みください。
 

いつもの帰り道で、なぜ知的障害がある青年が警察官に組み伏せられて命を失ったのか
支援者が事件の映画を無料公開
 (BuzzFeed Japan

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/kenta-yasunaga-keishokuhou-2

 

 


2022年10月19日水曜日

記者会見を行ないました

2022年10月18日(火)17時より
厚生労働省会見室(東京都千代田区霞が関)にて 

~国際連合 障害者の権利に関する委員会 日本審査第1回総括所見を受けて~
警察官職務執行法の「精神錯乱者」は国際的に恥ずかしい

と題し、記者会見を行ないました。

2022年9月9日、国際連合の障害者の権利に関する委員会は、
日本における障害者権利条約に基づく国内施行状況の
第1回報告に対する総括所見を公表しました。

※国際連合ページの総括所見ダウンロードページ(英語のみ)
 United Nations Human Rights  CRPD/C/JPN/CO/1 (English)
 https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CRPD%2fC%2fJPN%2fCO%2f1&Lang=en 


そのなかで、「精神無能力」「精神錯乱」「心神喪失」等の
法律上の文言などについて懸念を表明し、
日本の国内法等において「身体的または精神的障害」に基づく
軽蔑的な表現や欠格条項などの法的制限を廃止するよう勧告しました。

「安永健太さんの事件に学び、共生社会を実現する会」(略称「健太さんの会」)が、
2021年9月25日に実施したオンライン企画で公表した
警察官職務執行法から「精神錯乱」という用語を削除するべきという意見を含む
警職法改正提言案を後押しする勧告内容です。

会見では下記の声明を公表し、質疑応答を行ないました。

会見のようすは以下の動画をご覧ください。



声明は以下のとおりです。
PDF版はこちら

 

20221018

【声明】

国際連合「障害者の権利に関する委員会」による日本審査第1回総括所見を受けて

安永健太さんの事件に学び、共生社会を実現する会

 

202299日、国連障害者の権利に関する委員会(以下、「障害者権利委員会」)は、日本の第1回報告に対する総括所見を公表した。

障害者権利委員会は、「精神無能力」「精神錯乱」「心神喪失」などの蔑称や、「心身の障害」を理由とする欠格条項などの差別的な法的制限について、懸念を表明し、日本に対し、国内法等において、「身体的または精神的障害」に基づく軽蔑的な表現および欠格条項などの法的制限を廃止するよう勧告した。

 2007925日、佐賀市で安永健太さんという青年が、自転車に乗って障害者作業所から自宅に帰る途中、不審者と間違えられ、警察官から後ろ両手錠を掛けられ、5人もの警察官にうつぶせに取り押さえられて亡くなるという事件が起きた。その裁判では、警察が健太さんは「精神錯乱」状態だったと主張し、判決で警察の行為は正当と認定された。

 我々は、健太さんのような事件がまた起きることは何としても防がなければならないとの思いから、「安永健太さんの事件に学び、共生社会を実現する会」(略称「健太さんの会」)を立ち上げた。

そして、当会は、2021925日、警察官職務執行法(以下、「警職法」)から「精神錯乱」という用語を削除するべきとの意見を含む警職法改正提言案を発表した。

警職法は、3条で、警察官の職務行為として、精神錯乱者又は泥酔者に対する保護行為を定めているが、警察官らは、誰一人として健太さんに知的障害や発達障害があることに気づかず、障害があるのではとの思いを巡らして配慮をすることもなく、自らの警告に従わないとの一点を以って、健太さんを精神錯乱者だと決めつけ、健太さんを取り押さえた。すなわち、健太さんの尊い人命は、「精神錯乱」という用語に該当するとして失われたのである。

本総括所見で、障害者権利委員会は、「障害者に対するパターナリスティックなアプローチを伴うことにより、障害関連の国内法および政策が、条約に含まれる障害の人権モデルと調和していないこと。」を懸念し、上記の勧告を出した。このことはまさに、警察官らの無知・無理解に基づく障害者の人権軽視は、警職法が、「精神錯乱」者という表現を取っていることから正当化・固定化され、助長されたものに他ならないことを示している。ちなみに、警職法は1948年に制定されたもので、制定以来基本的な改正はなされていない。

政府は、第1回審査(建設的対話)で、「精神錯乱」は軽蔑的な表現ではないと回答したが、「精神薄弱」「精神分裂」「痴呆」がそうであったように、言葉の裏側に差別的な意味が隠れている言葉は多数存在し、「精神錯乱」も同様であると、障害者権利委員会は明確に指摘したものである。

よって、当会は、国に対して、総括所見の勧告を受け入れ、速やかに警職法の「精神錯乱」という規定等を削除し、警職法全般を日本が批准した障害者権利条約に相応しい内容に見直すべきことを強く求める。

くしくも、健太さんが命を落とした3日後、日本は障害者権利条約に署名した。当会は、今後も、2007年に起きた健太さん事件が残したものを社会に広げ、風化させないことで、障害への社会の理解を広げ、とりわけ警察及び司法関係者に正しい理解が周知徹底されるよう力を尽くしていくとともに、国が障害者権利条約を完全に実施し、二度と健太さんのような事件が起きない社会となるよう、これからも全力で取り組んでいくことをここに表明する。

以上