2015年4月20日月曜日

西日本新聞に全面意見広告を掲載

2015年4月20日、
民事裁判第3回期日が行なわれる
その日の西日本新聞(朝刊)に、
全面意見広告を掲載しました。

ノンフィクション作家、評論家の柳田 邦男先生にインタビューさせていただきました。

当裁判支援の呼びかけ人である
一般社団法人日本発達障害ネットワーク専門委員の
氏田照子さんがインタビュアーになっていただきました。

人を見る姿勢を、個人として、社会としてどう育んでいくのか、
とても示唆に富む内容となっております。

お読みいただく際は、データをダウンロード、または下記文字起こしをご利用ください。



西日本新聞掲載意見広告 2015年4月20日



● 以下のデータよりご覧ください ●

  西日本新聞意見広告(2015年4月20日付) 


当意見広告および前回の意見広告は、
安永健太さん死亡事件裁判の弁護費用や支援活動費用などの財源となる
支援募金を呼びかけいただく際に、資料として使用することができます。

当意見広告および支援の輪を
全国へ広げていただきますよう、
どうぞよろしくお願いいたします。


以下、ご覧になれない方が
読むことができるよう、文字おこししました。
ぜひお読みください。



本日、安永健太さん事件 福岡高等裁判所で審理



違いを認め合い、理解し合い、共に育ち、誰もが幸せに生きよう


いろんな違いを持つ人たちがいることを認め合い理解し合うことで、
障がいがある人もない人も共生できる社会が実現します。
あらゆる差別や偏見をなくし、誰もが幸せに
生きていくためにはどうしたらいいのか。
佐賀県で起きた安永健太さん死亡事件を契機に、
ノンフィクション作家の柳田邦男さんによる問題提起は
これからの地域づくりなどに大きなヒントになりそうです。
聞き手は一般社団法人日本発達障害ネットワーク専門委員の氏田照子さん。

人間を見る姿勢をしっかりと熟成させる


氏田さん 

 私は自閉症と知的障がいを持つ息子がいます。
 こうしたコミュニケーション障がいを持つ人のことを
 もっと理解してほしいし、知っていただきたいと思っています。

柳田先生 

 NHK障害福祉賞という人生記の選考委員を30年近くやっています。
 1980年代から90年代は目に見える身体障がいを持つ人たちからの応募が主で、
 本人も保護者も社会的偏見と闘い、人生を拓いたことを伝えるものでした。
 目には見えにくい自閉症や知的障がいのある人への差別、
 偏見が議論され始めたのは90年代で、差別を受けた人たちが投稿を始めました。
 2000年代には統合失調症や自閉症を持つ本人が
 積極的に体験記を書くようになってきました。

 これは時代の変化もありますが、障がい者教育のたまものだと思います。
 幼少期の教育現場では少しずつですが、障がい者への偏見や差別をなくし、
 それぞれの個性を認め合うことが生まれつつあります。
 
 しかし、社会に出るとそうした受け止め方が浸透していないのが現状です。
 警察官や消防署員をはじめ一般の人々がまちで何か異変事があると
 「ひょっとしたらこの子は知的障がいがあるかもしれない」という
 人間を見る姿勢が成熟しているとは思えません。
 もっと子どもや若者を見る目をしっかりと成熟させる必要があると思います。


能力や個性を許容し共生する文化を育む


氏田さん 

 成熟させるためにはどうすればいいのでしょうか。

柳田先生

 就職する前迄の様々な教育の段階で、単に知識としてだけではなく
 現場で学ぶカリキュラムが必要だと思います。
 世の中にはいろんな個性の持ち主がいますし、
 それぞれの価値観、人生の歩み、家族構成も違います。
 しかし、現在は成績や成果中心主義で世の中が進み、
 理解や仕事が遅い人は除外され、1人1人に対しての
 関心を持つことや理解がなされていません。
 これは障がいを持つ人だけではなく、セクハラやパワハラにもつながっています。
 
 企業では職場研修、特に管理職研修で人間を見る目を養い、
 上司として部下に伝え職場の在り方を変えていくべきです。
 
 地域では自治体で行われる人権週間などを活用するのもいいでしょう。
 さまざまな人生や個性を許容し合える視点を持つことは、
 災害時にも役立つなどの多様性が生まれてきます。
 難しいとは思いますが、それが社会に生きるということです。

氏田さん

 障がいを持つ人の中にはコミュニケーションが取れない人もいます。

柳田先生

 効率主義社会の中でそうした人を排除しています。
 それが差別の背景としてあります。人間はいろんな能力があり個性があります。
 それらを共生することが国の文化として根付かないといけないと思います。


その人の生き方や暮らし、命を守る教育を


氏田さん

 息子は言葉が話せませんでしたが、近所の子と一緒に遊んでいました。
 他地域の子が息子をいじめると守ってくれるのです。

柳田先生

 障がいがあっても決して不幸ではありません。
 このことを母親だけではなく、父親もしっかり理解するべきです。
 
 私は絵本の読み聞かせを薦めています。
 肉声やスキンシップが失われていく中で、
 読み聞かせは他者の悲しみを理解する感性を育み、
 子どもたちは驚くほど成長します。
 読み聞かせは障がい者の個性を理解する扉を聞きます。
 保護者は障がいを持つ子をどんどん外に出させて近所の子どもと遊ばせてください。
 それが自分の子どもはもちろん、近所の子どもまで成長させることにつながるのです。

氏田さん

 安永健太さんの事件を知り、同じような子どもを持つ
 多くの家族たちがいたたまれない思いでいます。
 安永さんのウー、アーは本当に最後の最後のSOSだったと思います。
 それすらも無視された。
 2度と同じような事件を起こさないために、
 この事件から何を学び何を伝えていけばいいのでしょう。

柳田先生

 この事件は強圧的な治安の維持を旗頭にして起きたと思うのです。
 地域交番のお巡りさんは地域の事を理解し、
 そこに住む人のことをよく知っているという本来の役割を取り戻してほしい。
 人間に寄り沿い、温かい目を向け、本当の意味で
 警察官として地域住民の生き方や命、暮らしを守る
 職業研修が必要になってくると思います。
 
 この事件からどういう教訓を得て、
 より安全安心な社会を作っていくのか。
 職業人として社会人として、
 どう求めて引き出していくべきなのか
 社会的議論を高めたいものです。


社会のすみずみで障がいについての理解を広げよう

 

「障がいとは何か、そして適切な対応とは」

慎重な審理と公正な判断に期待と注目


「警察官らは、安永健太さんが知的障がいや自閉症といった
 コミュニケーションに困難や障がいを抱えた市民であることの可能性など
 つゆほども思いもせず、ゆっくりで、かつ穏やかに話しかけ、
 近くで見守るなどといった適切な対応をしませんでした。
 警察官のうちの一人でも、このことに思い至っていれば、
 健太さんが亡くなる事件は起きなかったはずです。
 想像してみてください。
 言葉のまったく通じない外国で、いきなり大声で追いかけられたら、
 いったい何事かと不安になることは当然です。
 その上、よってたかって押さえつけられたら、
 何が起こったか分からず、どんなに恐ろしいか。
 驚いて必死に抵抗することは、精神錯乱者なのでしょうか」

これは、昨年12月15日に福岡高等裁判所(以下、福岡高裁)で聞かれた、
安永健太さん死亡事件裁判で弁護団が主張した意見です。

知的障がいのある安永健太さんが5人の警察官に取り押さえられ、
うつ伏せで後ろ手錠までかけられ、その直後に亡くなったこの事件は、
2007年9月に佐賀県佐賀市で起きました。

14年2月、佐賀地方裁判所は、健太さんの死亡原因を明らかにせず、
警察官の取り押さえは「適正な保護だった」という判決を下しました。
この結論に承服できない遺族は、真実を明らかにするために
福岡高裁に控訴しましたが、裁判の行方は不透明でした。

ところが12月15日の裁判では、少し流れが変わり始めました。
死亡事件が起こる3年前の04年、警察庁は「障害をもつ方への接遇要項」を
全国の県警等に配布し、障がいがあると思われる人には、
「優しく、かつ相手を尊重したことば遣いで対応し、
 コミュニケーションが不十分であったら、
 ゆっくり、分かりやすい対応をすること」
を全国の警察官に指示していました。
また事件当日、健太さんは障害児学校時代の生徒手帳を持っていました。
もし警察官が、健太さんのコミュニケーションの困難さに気付き、
健太さんと一緒に所持品を確認していたら、
痛ましい事件は起こらなかったはずです。
健太さんの弁護団は、こうした点から「警察官の注意義務違反」を主張しました。

15年4月20日の福岡高裁の裁判では、この弁護団の主張についての審理が行なわれます。
佐賀地裁の裁判ではなかった展開です。

障害者権利条約を日本政府が批准して1年を経過しました。
障害者差別解消法も成立し、いよいよ地域社会のすみずみに、
障がいについての理解を広げる取り組みが、
国ならびに全国各地の自治体で進められようとしています。

それだけに、安永健太さん死亡事件の裁判の行方は、
大きな社会的な意味を持っています。
多くの障がいのある人やその家族・関係者は、
福岡高裁における慎重な審理と公正な判断に、熱い期待と注目を寄せています。

※障害者者権利条約…
 2014年1月、わが国は障害者権利条約を批准しました。
 国連議会で採択されたのは06年。
 主な内容は障がいに基づくあらゆる差別の禁止、
 障がい者が社会に参加し、包容されることを促進するなど。
 障がい者に関する初めての国際条約です。


安永健太さん死亡事件とは


2007年9月25日、佐賀市で暮らしていた知的障害のある健太さん(当時25歳)は、
障害者通所施設から自転車で帰宅途中、
5人の警察官に取り押さえられ、命を落としました。
遺族は、「真相を明らかにしてほしい」と裁判を起こしました。
しかし、昨年2月の佐賀地裁の判決は
「障がいへの無理解やコミュニケーションに困難を抱えた健太さんに
原因を押しつけた、障がいのある人の人権を無視した内容でした。
2度と同じ事件を起こしてはならない」ため、
遺族は勇気を振り絞り、福岡高裁に控訴しました。




私たちも応援しています


九州各県の障害関係団体等支援者77名

支援呼びかけ人12人および1団体

賛同人10名


平成27年4月20日 西日本新聞朝刊掲載