2016年1月5日火曜日

安永健太さん死亡事件 福岡高裁判決のご報告

全国から期待を胸に250人が集結

12月21日(月)、福岡高等裁判所には、福岡、九州各県に加え、
埼玉、東京、神奈川、愛知、滋賀、京都、大阪、兵庫、岡山、広島から
250人が判決を聞こうと集まりました。

裁判所前で行なわれた門前集会では、
健太さんのお父さんである安永孝行さん、弟さんの浩太さん、
弁護団から今の心境を話されました。
いずれも今日の判決に期待する言葉が発せられました。

判決日の前週には、全国から届けられた
累計57,668筆もの慎重審理を求める要望書を福岡高裁に手渡しました。

しかし、判決は敗訴

そして15時より、
福岡高等裁判所第501号法廷にて、
記者14席含めた120の傍聴席が埋まるなか、
安永健太さん死亡事件の民事控訴裁判の判決が言い渡されました。

結果は、2014年2月28日に佐賀地方裁判所が下した原判決を
そのまま採用して請求棄却、敗訴でした。

傍聴席、全国から福岡に集まった250人は落胆の色に包まれました。

裁判官の口から異例の判決主旨が

判決文は「主文」と「事実及び理由」と構成されています。主文は以下の文章だけです。

1 本件控訴をいずれも棄却する。  2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

そして一般的に民事裁判では主文を裁判官が言い渡して裁判が終わります。
しかし今回は、判決趣旨と前置きし、この裁判での大きな争点について説明しました。
その内容は、
「警察官にはその人の言葉や行動等から、
知的障害やコミュニケーションの困難さがあると思われる場合には、
その人の特性を踏まえた適切な対応をすべき注意義務がある。
しかし安永健太さん事件の場合は、このような義務に違反したと評価できない」というものでした。

争点1 健太さんへの取り押さえは保護行為を超えているのでは

今回の裁判の主な争点は2つでした。
1点目は、障害があるなしに関わらず、健太さんへの取り押さえは保護行為を超えているのでは、という点です。
判決では、違法とはいえないと判断しました。
これはこれまでの裁判で証人尋問されてきた、
取り押さえた警察官がいう健太さんは激しく抵抗していた等の証言を引用して、
違反ではないとするものです。

ただし、今回の判決では、この事件は健太さんに知的障害があったから起きたと認めていて、
警察側がこれまで主張してきていた、
「障害があってもなくても健太さんへの取り押さえは正当」ということについては否定しています。
さらに、「ウー、アー」という健太さんの取り押さえ時の言動は、
障害や困難があることがわかる事情と認めているのです。

しかし、健太さんへの取り押さえは、違反とはいえないという判断を下しました。

争点2 障害などに配慮した対応が必要なのでは

そして2点目は、知的障害やコミュニケーションに不安がある等の人に
配慮した対応が必要なのでは、という点です。

判決では、一定数の障害者が地域で生活している日本の現状からみて、
警察官は知的障害やコミュニケーション困難のある人に
適切な配慮ある対応を行う注意義務があることは明らかである、と明言しました。

ただ今回の事件では、健太さんがうつ伏せで取り押さえされてから心肺停止まで
「長くても10分程度」だったなかでは、薬物依存などの可能性もあり、
知的障害があるかどうかは確実な判断ができないとしました。
 

無念の声が次々と

以上のように、今回の判決は
「警察官は知的障害やコミュニケーション困難のある人に適切な配慮ある対応を行う注意義務がある」
という前進点はあったものの、結局は警察官個人の判断による行為によって死に至らしめられても
違法ではないということであり、とにかく結論は敗訴でした。

判決後、安永健太さん死亡事件を考える会福岡事務所の古賀の進行で、
福岡中央市民センターにて行なわれた報告集会を行ないました。

傍聴者から「今日は多くの人たちと喜び合えると思っていた」との無念さや、
「この判決は人の命が軽んじられている」、
「あんなに簡単な言葉で命を決めていいのか」との怒りの声があがりました。

安永孝行さんは、
「裁判の結果は最悪だった。現場の警官次第で事が変わるのではないかという印象がある。
上告するかはこれから考える。言葉がちょっと出てこない。」

安永浩太さんは、
「完敗。兄ちゃん(健太さん)の場合は、知的障害者とわからず、
暴れたから取り押さえてもいい、と判決に書いてある。
また、亡くなったこと真相については書いていい。残念。
ここまでこられたのはみなさんのおかげ。まだまだ自分たちは頑張ろうと思う、
兄ちゃんを犬死にしないために。」

とその思いを話されました。

これからがはじまり

安永さんの弁護団長である河西弁護士や事務局長をつとめる星野弁護士からは、
「社会を変えることこそが勝つということであると思っている。
判決趣旨を裁判官が言うのは珍しい。これは傍聴者に伝えたいことがあるということ。
伝えたかったのは、警察官には障害などに配慮した対応をするべき注意義務が当然にあるということ。
この事件をさらに広く知らしめること、社会の理解を深めること、
そして変わることのために運動していくことが必要。」との発言がありました。

報告集会最後の言葉として、日本障害者協議会の藤井代表からは、
この事件をもっと世の中に広げていくこと、
地元の警察や弁護士などと連携して、
安永さん事件のようなことが起こらない地域との関係を作っていくことの
2点に提起がなされました。

最高裁判所へ上告するかどうかは、
安永さん親子が決められることですので現時点ではわかりません。
裁判が続くこととなればより大きな支援をしていきましょう。
そして、さらに安永健太さん事件を広く地域に知らせ、
障害のある人が安心して暮らす事の出来る地域をつくるための運動を継続し、
さらに大きくしていきましょう。



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